Sub Note.2

成年後見制度
ころばぬ先の杖として 成年後見制度概説

成年後見制度とは

例えば、認知症になったらどうしようか?
万一入院したら入院費の支払いはだれに頼もうか?
施設へ入所するための契約はどのようにするのだろうか?


一人暮らしであればなおさら、家族の支えがあっても当然感じる将来の不安だと思います。 また、知的障害のお子さんがいる親は、自分に何かあったとき、この子はどうなってしまうのだろうかといった大変切実な不安もあるかと思います。あるいは、高齢の母親が、どうも最近訪問販売などで言われるままに高価なものを買ってしまう、など判断能力が衰えると、そのことにつけ込まれていろいろな権利侵害を受けてしまう。さらには、一緒に暮らしている寝たきりの父親の面倒を見ているのだが、他の兄弟から何かと財産について疑いの目で見られてしまう。逆に例えば、老人ホームにいる母親の年金を兄が勝手に持ち出して困っているなどと、むしろ身内や家族の間の方がトラブルの方が多いのかもしれません。
  このような将来の不安に立ち向かうための仕組みであったり、判断能力が不十分な状態の方の権利を守る仕組みがまさに成年後見制度であります。
 つまり精神上の障害により判断能力が不十分であるため契約などの法律行為における意思決定が困難な方について、その判断能力を後見人が後ろ盾となって支える。まるで歌舞伎の黒子のように補いそしてサポートする。それが後見制度の主な役割といえます。

制度の背景と理念

 従来、民法上「禁治産」「準禁治産」という制度が存在していました。しかしこの制度は様々な問題点が指摘されていて十分な活用がなされていないというのが実情でした。従って行政上の手続きも本人の意思が全く考慮されない「措置」という手続きに頼らざるを得ない状況にあって、たくさんの矛盾が生じていたわけです。契約社会といわれるこんにち、その時代の要請にこたえるべく、新たな成年後見制度が2000年4月にスタートしました。成年後見制度の理念として主に次のようなものがあります。
①ノーマライゼーション
つまりノーマルな生活をするということです。認知症や障害があるからと言って特別扱いせず、家庭や地域で今まで同様の普通の生活、普通の暮らしができるような社会を目指す。後見人はその実現に配慮しながら支援をしなければなりません。
②自己決定権の尊重
これは本人の考えを尊重し、きちんと残された能力を活用しましょうという理念です。もちろん本人の言いなりになるということではありません。本人の考えや環境、今までの生活歴などさまざまな要素を総合的に考慮したうえで本人の自己決定権(自分で決められること)を見極める必要があるということです。
③身上配慮義務
後見人は財産を管理するだけでなく、本人の医療や介護・福祉などについて、本人のよりよい生活や身上に配慮しながら支えていくという考え方です。よく財産のない方に成年後見は必要ないのではと問われることがあります。しかし、実は財産のない方ほど、医療や介護の利用が受けられなかったり、少ない年金や生活保護費などを狙われて経済的な虐待を受けてしまう。ですから財産のない方ほど、この身上に配慮するという理念によって後見人は守ってあげなければならないのです。

後見制度を利用できる人とは

①加齢による脳の老化がみられる場合⇒認知症など
②生まれながらに脳に何らかの障害がある、あるいは子どもの頃、病気等で脳に何らかの障害を受けた人⇒知的障害者
③脳こうそく・交通事故・手術などにより脳に損傷を受けた人⇒高次脳機能障害
④社会的ストレスなどから精神が不安定になった場合⇒統合失調症等

後見制度の種類

法定後見
 後見制度は、能力に応じた種類があります。まず、法定後見と任意後見に大別されます。 法定後見とはあくまで能力の衰えたのちに家庭裁判所から選任された後見人が、本人の能力に応じて支援することになります。本人の判断能力の衰えに応じて、軽い方から補助人を付ける補助の制度。やや衰えが重くなった方には保佐人を付ける保佐の制度。そして最も重い方には後見人をつける後見の制度と3つの類型に分けられています。いずれにしても、この法定後見人等を選任していれば、例えば一人暮らしの高齢者が、悪質な契約被害にあったとしても、速やかに、後見人の代理兼や取消権に基づき取り消すことができるということになります。つまり難しい裁判などしなくても、後見人をとおしていないからダメです。後見人が同意または代理していないのだから契約は不成立もしくは取り消しますと即時に言えるわけです。ですから契約被害などに非常に有効な武器となるわけです。

任意後見
 これに対し、任意後見制度は、契約による後見の制度です。後見制度というと、能力が衰えた後でなければ利用できないと思っている方が多いかもしれません。もちろん判断能力が衰えてから利用することもできるのですが、この任意後見制度は判断能力が衰える前、つまり元気でしっかりしているときから、自分の判断で将来の後見人を予定することができるという大きな特徴があります。

 具体的事例に沿ってその特徴を説明します。
「宇都宮市在住の早苗さんは、子どもがなく税理士である夫の事務の手伝いをしながら暮らしていました。ところが、7年前に夫は他界し、事務所も閉鎖してのちずっと一人暮らしが続いていました。最近は足腰も弱くなり物忘れもひどくなってきました。早苗さんは、認知症になったらどうしよう。人に騙されはしないだろうかなどとこれからのことが不安でいっぱいです。そこで早苗さんは夫が親しくしていた友人の司法書士に相談したところ任意後見制度のアドバイスを受けたというわけです。その結果早苗さんは、日ごろ親しくしていて近所に住む姪っ子の幸子さんにお願いして任意後見契約を結ぼうと考えました。しかし、早苗さんはそれでもちょっと不安があります。それは・・
①私がぼけてしまってどうやって幸子さんと任意後見契約を結んだことを証明するのだろう??・・・
②疑いたくはないけれど、幸子さん一人に任せて大丈夫かしら、不正はしないかしら?・・・
③死んだあとのことはどうなるのかしら??
 そこで①の不安については、任意後見契約は、公証人という法律家をとおして公正証書として何をどのようにお願いするか具体的に定めて契約する仕組みになっています。そしてその内容は東京法務局に登記され証明書をもらうこともできます。ですから、早苗さんがぼけてしまって、幸子さんにお願いした覚えはありませんとか、お願いしたけどやっぱりやめるわなどと後から言いだしても安心です。つまり本人だけでなく周りにいる家族にも役立つ仕組みであるわけです。
 また②の不安に関して任意後見制度は次のように応えています。まず、早苗さんは幸子さんに支援をお願いしましたが、この任意後見契約の効力は、もちろん早苗さんの判断能力が不十分にならなければ生じません。もし判断能力が衰えますと、家庭裁判所から任意後見監督人が選任されます。そしてここで初めて幸子さんの支援が始まります。幸子さんを監督する任意後見監督人とは、裁判所から選任された法律の専門家であります。従って幸子さんに不正がないかちゃんと監督してくれるので安心です。
 最後に③の不安に関しても任意後見契約の契約に加えて死後事務の委任も合わせて依頼することができます。従って病院への精算や葬儀、財産の引き継ぎその他の清算事務についての不安にも答えることができます。ただし、残った財産をだれにあげたいとか、遺産の分配の希望については遺言書を残しておかなければなりません。
 このように、任意後見制度は、本人が元気なうちに「この人にお願いしたい」という気持ちを反映させることができますので、本人の老後のライフプランも非常に立てやすいということになると思います。

後見人の仕事

代理権に基づく支援  
 後見人の仕事は、本人の生活、療養看護および財産に関する法律行為(介護認定の申請や介護支援契約、不動産の売買契約の締結など)を、本人に代わって行います。本人の生活にかかわる様々な手配をして、必要な財産管理を行います。ただし、後見の種類によって与えられる代理権の内容が異なります。
①任意後見人は、本人が代理権を与え、本人が必要とする法律行為が代理権の内容となります。
②成年後見人は、家庭裁判所から代理権が付与され、原則としてすべての法律行為ができるようになります。
③保佐人・補助人も家庭裁判所から付与されますが、本人が必要とする法律行為の代理権または同意権に限られます。
  たとえば、後見人の知らないところで、本人が不利益な契約をしてしまうことがあります。この契約自体に問題があれば、他の法律で取り消すこともできますが、実際には困難な場合が多くあります。また、仮にその契約の取り消しができたとしても、同じような不利益な契約を繰り返してしまうという可能性があります。むしろ判断能力が不自由な方の被害の特色でもあります。そこで、後見人の同意権や取消権による支援ができます。
 もし、本人の高額な着物を買う行為に同意権や取消権があれば、たとえば、本人にダメですよといっていたのに買ってしまった場合、あるいは相談なく買ってしまった場合、この同意見や取消権によって契約を簡単に取り消すことができます。

後見人のできないこと

①日常生活に関する法律行為。たとえばパン屋さんでパンを買う行為まで取り消すことはできません。
②事実行為。実際に食事を作ったり、部屋の掃除をして支援することを「事実行為」といいます。この事実行為は仕事とはなりませんが、本人のために食事やへやの掃除をするためヘルパーさんが必要かどうか判断し、必要に応じて契約や費用の支払いをすることは後見人の仕事となります。
③一身専属行為。つまり婚姻や養子縁組・離婚や遺言など本人しかできない行為のことを言います。当然のことですが、本人の代わりに遺言を書いたり、結婚の約束をするなどできるはずもありません。

制度の課題

 以上、簡単な説明ではありましたが、この頃は、過量販売、振込め詐欺、架空請求など高齢者や障害者を狙う悪質商法が後を絶ちません。成年後見制度はその予防策、防波堤となります。また、超高齢社会におけるさまざまな社会環境の変化と人々の制度に対する認知度、理解度が進んでまいりますと、成年後見制度の利用は急激に増えるだろうといわれています。結局私たち専門家ばかりが制度に詳しくても、制度を利用する市民の方々の理解がなければ、絵に描いた餅にほかなりません。私たち司法書士は、そのためにこれからも出前講座や後見人養成講座といったものを積極的に開催し、説明をして、すそ野を広げていきたいと考えています。本頁を閲覧いただいた皆さんもぜひ、この新しい成年後見制度を身近なものとして理解していただき、ご自身のため、そして家族や地域のために、有効に活用していただきたいと思います。

(参考文献 法学書院 ガイドブック成年後見制度)


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