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時効の不思議 時効のあれこれ

はじめに

 昨日まであると思っていた権利が突然消えてしまう。自分のものではなかったものが、無償で自分のものになってしまう。罪を犯したのに裁判にかけられなかったり、刑を執行できなかったり・・・時効という法律はまるで魔法のような不思議な制度です。ドラマや推理小説などでもよく使われる、この時効という法律はなぜできたのでしょうか。
 本来、お店でものを買ったり、飲食店で食事をすれば代金を支払わなければなりません。お金を借りたときは必ず返さなければなりません。当然のことであり常識でもあります。もちろん法律にもそのように定められております。ところが、同じ法律であっても、借りたものでも返さなくてよいとか、買ったものでも代金払わなくてよいと書いてある。まさに不思議な制度、それが時効であります。そこで、今回は時効制度の生まれた由縁と、これだけは知っておきたい時効の種類やポイントなどについて解説したいと思います。

時効の種類

 一口に時効といってもいろいろと種類があります。まず大きく分けると刑事上の時効と民事上の時効に分類されます。そして刑事上の時効は、「公訴時効」と「刑の時効」に分けられます。「公訴時効」とは、犯罪者でも犯行から一定期間の経過によって刑事裁判がかけられなくなるという時効です。なお、公訴時効に関して2010年4月に、殺人などの公訴時効を廃止・延長する刑事訴訟法などの関連法の改正がなされて話題になりました。
 もう一方の柱としてあるのが、民事上の時効です。民事上の時効は取得時効と消滅時効の2種類に分けられます。とりわけ消滅時効においては、専門家でも覚えきれないほど、長期のものから短期のものまでたくさんの種類があります。(種類というよりも多数の時効期間といった方が正確かもしれない。)なお、消滅時効規定を含め、現在法制審議会民法(債権関係)部会で、2015年2月頃に法制審議会の答申が可能となるように、要綱案を取りまとめることを目指して改正に向けた審議が続けられている。
 ところで、実社会においては、この時効の知識はかなり重要で、たとえば会社の商店において売掛金が時効にかかりそうだと大慌てすることも珍しくありません。友人への貸金や飲み屋のつけなど身近なトラブルにも関係してきます。交通事故で長期療養している方の損害賠償など切実な問題としてかかわってくることもあります。

時効制度が設けられた理由

例えば、借金をしたら契約上のルールにのっとり利息も含めて、きっちり返済しなければならない。しかし時効にかかれば、その返済をしなくてもよいとなります。一見矛盾していると思われますが、どうしてこのような制度ができたのか・・・
 主に3つの理由が挙げられます。

①社会の法的安定のため  つまり、一定期間継続した事実は、そのまま正当な権利として認めて法律関係を安定させるという考え方。例えば甲の土地を何らかの理由で乙が20年間も占有していたとします。世間ではその土地は乙のものと信じて、様々な取引がなされるでしょう。であるならば、忘れたころに甲がやってきて、返してくれと言っても社会は混乱してしまう。かえって社会のためにならないという考え方です。

②権利の上に眠るものはほごされない  1番目の理由と意味合いにおいて重複しますが、古いことわざに「法は自らの権利を守る者のみを保護し、自らの権利を放置し権利の上に眠るものには法的保護を与えない」という考え方があります。結局長きにわたりしかも無防備に権利を行使しないで放置しておくような人は、その権利を失ってもしょうがないという考え方です。

③証明の困難さ  何と言っても、長期にわたって一定の事実関係が継続し、その事実関係が正当なものであるのかどうなのかという争いが生じたときに、既にそれを証明するものが散逸してしまって困難であるということが現実的に言えます。むしろそういった昔のこと、証明の困難な問題を争いとして蒸し返すことは妥当ではない。継続した事実関係は正当な権利として法律上の承認を与えようという考え方です。

知って得する事項のポイント

 実生活においては、当然のことですが民事の時効の知識が重要になります。主なポイントとして

①時効は援用しないと効果が生じない。
②どうすれば時効を中断できるのか。
③各種時効期間はどのように定められているのか。
の3点を以下に整理してみました。

①時効は援用しないと効果が生じない。
先述のとおり民事の時効には消滅時効と取得時効があります。取得時効とは所有権やその他の財産権を10年もしくは20年間占有(但し自主占有→所有の意思を持って物を持っている状態。土地であれば、耕作やその土地に建物を建てたりすること。賃借している土地は自主占有ではない。)することによって権利の取得を認める制度です。消滅時効とは一定期間、自分の権利をほったらかしにしていたために、その権利が消滅してしまう制度を言います。そして、社会でかかわるほとんどの時効が消滅時効といっても過言ではありません。従ってここでは、消滅時効に絞ってお話ししたいと思います。
 そこで、まず実際に時効を主張するためには「時効の援用」という手続きが必要となります。いくら時効が完成していても、利益を受けるものが、時効が完成していると宣言しなければ、つまり黙っていたのでは、時効の利益は受けられません。

具体的にクイズを例に考えてみたいと思います。

クイズ 4年ほど前に、夫が浮気をしていたことが最近判明しました。夫を問い詰めると「浮気の時効は3年だからもう時効でしょ」と開き直られました。妻は気持ちがおさまらず許せません。慰謝料を請求したいのですが、時効が完成していて請求できないのでしょうか?

 まず、そもそも浮気をしても3年間たてば許されるというような、そんなふざけた法律は一切ありません。ただし、慰謝料については時効の問題がかかわってきます。民法の条文をみてみると「不法行為による損害賠償請求権(慰謝料)は、被害者が損害および加害者を知った時から3年間行使しないときは時効によって消滅する。また、不法行為の時から20年を経過したときも同様とする。」とあります。つまり妻が知らなかった夫の浮気は、夫の不貞な行為があってから20年以内であって、かつ浮気(不貞行為の事実)を知った日から3年以内であれば請求することができるということになります。従って、設問のように夫が浮気したのが、たとえ4年前であっても、妻がそのことに気づいたのが、つい最近であるならば、離婚しようがしまいが当然妻は慰謝料の請求ができるということになります。

 ところで損害賠償請求権は不法行為の時から20を経過したときは請求できなくなると申しました。この場合の20年という期間は、いわゆる除籍期間といわれるもので、請求ができる権利の存続期間ということになります。つまり、当事者の援用がなくとも、また途中で中断されることなく、とにかくその期間を過ぎれば、当然にその請求権が消滅してしまうという期間のことをいいます。

 さて時効の援用の話に戻りますが、ではもしクイズの妻が浮気の事実を知ってから4年後のつまり時効期間経過後に、やっぱり許せないわという気持ちになって、そこで初めて慰謝料の請求をした場合はどうなるのか。この場合は、既に時効期間が経過しているので、夫の時効援用の意思にかかわってまいります。そして夫が時効を援用し、妻にあてて内容証明などの文書できちんと時効援用の意思を表示するとか、裁判において時効を援用するとの主張がなされれば、妻の夫に対する慰謝料請求権は確定的に消滅するということになります。但し、もし夫が時効利益の享受を潔しとしないと考え、もしくは時効が成立していることに気付かずに、任意に妻の請求額を支払った場合、これはもちろん有効な支払いとなります。つまり時効とはあくまで援用しなければ効力は生じないのであって、気付いていようがいまいが援用がなされていなければ、損害賠償の支払い義務は消滅することなく、妻は晴れて慰謝料を受け取ることができるということになります。結局、時効とは、一面では真実の権利者の権利を侵害することになり、従って時効の利益を受けるかどうかを、利益を受ける人の自由な選択に任せるという性質を有しています。そしてその選択行為を援用といいいます。

②どうすれば時効を中断できるのか。
まさに債権者にとって最も重要なこと、それは、いかにして時効の進行を止めるかということだと思います。先ほどのクイズのように、時効成立前に妻が慰謝料を請求したにもかかわらず、夫がいつまでも払おうとしなかったら、そして妻もそのうち払うだろうと指をくわえて待っていたとしたら、やがて時効は成立し援用され慰謝料請求権は消滅してしまいます。そこで債権者の請求権を保護するために、時効の中断という制度が設けられています。
 時効が中断されますと、原則として中断の時から新たに時効が進行するという効果が生まれます。例えば、慰謝料請求債権は3年間ほっておくと消滅時効にかかります。しかし、途中で時効が中断されると、その時から新たに3年の時効が進行していくということになります。これは債権者にとって大変ありがたい話で、訴訟を起こすにしてもじっくり時間をかけて相手方に請求することができるようになります。
 では、どのようなことがあれば時効が中断するのでしょうか。この時効中断事由はいくつもありますが、まず訴訟を相手方に提起すれば、その時点で時効は中断します。また、支払い督促や和解・調停などの法的手続きも一定の条件のもとに時効は中断します。しかし、中断事由のなかで重要な作用をもっているのは、債務者から権利の承認をさせるという方法であると思います。例えば、クイズの例で妻が夫に対し慰謝料の支払い義務を認め書面で証明してもらう。あるいは一部の支払い、たとえ一円でも支払ってもらえれば、債務のすべてについて時効は中断します。支払い猶予願いも同様で「もう少し待ってほしい」との申し入れさえあれば時効は中断します。これらは、のちに訴訟になったとしても支払い義務に対する有効な証拠にもなりますから、承認させるという方法はとても重要であります。最後に、簡便な方法として催告という中断事由があります。これは内容証明などで、とにかく支払いの請求をするということです。ただしこの場合の中断の効果は6か月の一時的なものであり、少なくともその6か月の期間中に訴訟などの法的手続きを行わなければなりません。従って応急的手だてという意味で有効な手続きとなります。

③各種時効期間はどのように定められているのか。
 時効期間は、権利の種類に応じてたくさんあります。時代とともに改正されるものもあり、常に情報に敏感である必要があります。従って現行法(26.1.1現在)における時効期間で、かつ身近なものを以下に解説します。
 まず、貸金について、例えば消費者金融から借金などをした場合の弁済債務の消滅時効期間は商行為であるため5年という短い期間で満了します。返済期日の決まっているものはその期日から5年であり、決まっていないものは借入した日から5年。また、銀行などからの貸付金は貸付金支払日から5年となります。ところが、友人知人など個人間での借金となりますと、民事債務であるため10年という長期の期間が定められています。
 その他、労働債権として、労働者(社員、パート、アルバイトなど)の給与請求権は給料日から2年。退職金は退職日から5年。工事請負代金は3年。家賃・地代などは支払期日から5年。敷金保証金の返還請求権は10年。損害賠償請求権など不法行為(交通事故、不倫などの不貞行為、傷害、器物損壊)は損害および加害者を知った時から3年。(但し不法行為の事実のあったときから20年の除籍期間を経過で請求権は消滅する。)より短期で成立してしまう時効として、例えば、品物の売掛金、塾・習い事の月謝などは2年。大工、左官、植木屋等の手間賃、タクシー、引っ越しの運送費、レストランや飲み屋のつけなどは、請求できる日からたったの1年で成立してしまいます。

 最後に

 時効という制度は、かかわる人にとってまさに天国と地獄の関係にあるのかもしれません。あなたは得する人でしょうか、それとも損する人でしょうか。時効の不思議・・損する立場にならないよう日常における時効の知識を認識して生活されることをお勧めします。

(参考文献 自由国民社 時効)


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